『警視庁物語』シリーズの2作品で使用されたロケ地とその対比写真を掲載する。
まずは『警視庁物語 顔のない女』(1959年2月18日:村山新治監督)の岡村病院から。
目黒区上目黒1丁目の西郷山通り。中目黒駅に近い一角から北西方向を望む。
病院のすぐ横に見えるのは国鉄上目黒アパートで、現在は東京音楽大学がある場所。画面奥、道路の先は当時の都営アパート。現在は目黒区営青葉台一丁目アパートとなって建て替えられている。
なお、“岡村病院”は撮影用の架空の名称だが、建物自体は本物の病院であった。
続いて『警視庁物語 謎の赤電話』(1962年6月24日:島津昇一監督)より。
小林邸。誘拐犯とのやりとりが電話を通じて行なわれるお屋敷。
事件を知った刑事たちが急行する場面と通話の録音テープを回収する場面、わずか2シーン2カットのみではあるが、坂道と景観は非常に印象的。
場所は目黒区青葉台2丁目。
青葉台の西郷山公園付近から旧山手通りを挟んだ渋谷区鉢山町あたりの一帯は、この時代には制作会社を問わず頻繁にロケ撮影が行なわれている。
ちなみに『長谷川公之 映画シナリオコレクション』(アートダイジェスト社)掲載のシナリオ決定稿によれば、ここは“高級住宅街”となっているが、場所は特には指定されていない。
(逆探知の舞台となる電話局は“青山電話局”と書かれている)
最後に紹介するのは目黒川に架かる桜橋。上目黒1丁目で『顔のない女』の岡村病院のすぐ近く。


橋の架替えに伴い、映画撮影時よりも欄干は高くなったと思われる。
林刑事(演・花沢徳衛)は容疑者の自宅前で張り込むが、「その男は逮捕された」との報を受けて引き上げる。前傾のシナリオでは“アパートの表”という柱となっている。
『謎の赤電話』の小林邸は手がかりが乏しく、場所の特定は難航した。だがある時「この作品でなぜ桜橋を使ったんだろう?」とふと考え、近隣で他作品でも使用例のある西郷山公園周辺かもしれない……と閃き、解明に至った。
『警視庁物語』シリーズはベストフィールド社よりDVD-BOXとして発売されたが、『顔のない女』『謎の赤電話』は収録されてない。東映チャンネルでの放送や配信によって視聴の機会は容易にはなったとはいえ、シリーズ中でも出来の良い2作でもあり、早期の商品化を切に願う。
(文中敬称略 撮影:2023年9月)
今回は『警視庁物語 上野発五時三五分』(1957年8月27日:村山新治監督)のロケ地である墨田区京島を取り上げる。
殺人犯の住所を突き止めた山村刑事(演・波島進)と金子刑事(演・山本麟一)は現地に向かう。
劇中では“荒川区三河島”と語られているが、実際にロケに使用されたのは墨田区京島3丁目。
波島進が身を潜めるのは映像の電柱広告にも店名が映るねぎし質店(根岸質店)の敷地内。このブロック塀はストリートビュー上では2010年まで存在が確認できる。
殺人犯は不在で、その妻が友人とともに外出したところだった。妻と友人は近所の喫茶店に入り、金子刑事が後を追う。
山本麟一と波島進が横切るのは、現在曳舟たから通りと呼ばれている通り。京島3丁目と2丁目の境に位置する。喫茶店に隣接する建物が当時のまま残っている。
喫茶店を出た妻たちはタクシーに乗って立ち去り、山村刑事が追跡する。
たから十間橋交差点。上の映像には東武亀戸線の踏切が捉えられている。下の映像でタクシーが走っていくのは十間橋通り。
にぎやかな商店街といった昭和の風情はさすがに失われているものの、往時の面影を残す建物がそこかしこに現存している。撮影に赴いたのは真冬だったが、陽射しもあって気持ちよく散歩できた。
(文中敬称略 撮影:2022年12月)
2021年の暮れから本格的な検証を始めた『月光仮面』ロケ地。まるで見当のつかないシーンや場所がいまだ多数だが、それでも少しずつ解明は進んできた。今回はそのひとつ、第1部6話(1958年3月放送)の舞台となった墨田区緑町公園を対比写真で紹介する。
名探偵・祝十郎の助手である袋五郎八(演・久野四郎)は、同じく助手のカボ子(演・宇野よし子)から「どくろ仮面を捕まえてみなさい」と叱咤激励される。
ほとんどデートのような会話で微笑ましい。場所は墨田区亀沢の緑町公園。当時は敷地の南側にテニスコートがあり、その向こうを総武線の列車が走る。すみだ北斎美術館が建てられたため、現在の景観はご覧の通り。
どくろの仮面を被った怪しい男にふたりは気づく。
映像に映り込む“トエダ質店”の電柱広告と“浅見シャーリング工場”の文字は場所特定の最大の物証となったが、特に後者を読み取るのには少々苦労した。
男はどくろ仮面に違いないと考えた五郎八は飛びかかり、捕らえる。だが、彼はテレビ映画の宣伝マンであった。時代を感じさせるおおらかなセルフパロディでシーンは終わる。
公園西側の道を北から南へ歩いてきたどくろ仮面=宣伝マンは、ここで突然東側の道へ移り、総武線を背にして南から北へ向かい始める。元画像4枚は北斎通りに近い公園の北側に当たる。2枚目3枚目の対比写真は若干画角を広げ、周囲も見えるようにしてみた。
この付近には多少の土地勘があり、映像の電車は墨田区・江東区あたりの総武線かもしれないと即座に閃いた。だが、同時撮影されたであろう前後のエピソードにその一帯を使ったシーンはなく、他の地域も探してみたものの該当する公園は見当たらない。そこで“トエダ質店”と“浅見シャーリング工場”を改めて調査したところ、当初想像した通りの場所だったと確認できた。
なお、関係者の証言によれば、制作初期の段階でここからそう離れていない公園でロケが行なわれたとされている。筆者の調査ではその公園の映像は確認できておらず、あるいは現在欠番となっている第1部9〜12話にそれが含まれるのかもしれない。もしもそうなら、この回で緑町公園が使用されたのも十分納得できる。
『警視庁物語 逃亡五分前』(1956年2月18日:小沢茂弘監督)より、クライマックスからラストシーンにかけてのロケ地である江東区大栄橋とその周辺を取り上げる。
殺人犯逃亡の情報を得た宮川刑事(演・南原伸二=南原宏治)は、素性を隠して犯人と拳銃売買の約束を取り付け、指定された橋で待つ。
対比写真は大横川遊歩道からの撮影。映像と極力合致するよう心がけた。劇中の待ち合わせ時間は23時であるが、実際は昼間、恐らく午後の時間帯に撮られている。なお、映像から作成した元画像は明度を上げ、見やすくしてある。
「木場の井住橋」と台詞で語られるこの橋、実際に撮影に使用されたのは約600メートル北西にある大栄橋。
殺人犯の小磯(演・伊藤久哉)と仲間の黒岩(演・富田仲次郎)が橋の東から歩いてくる。西側の袂で待機する同僚刑事たち(演・神田隆、堀雄二、山本麟一)の間に緊張が走る。
交渉する宮川刑事と小磯、黒岩。南原宏治の背後に見えるのは茂森橋。
宮川刑事はふたりを捕らえようとするが、逃げられてしまう。
小磯たちは大栄橋の東の袂を左折し、北方面へ逃走する。張り込んでいた刑事たちが追いかけ、銃撃戦となる。元画像の1枚目からもわかるように、クレーンを使ったカットが要所要所で効果的に挿入されている。
冨田仲次郎が拳銃を撃つのは対比写真2枚目の位置と推定したが確証がない。別の場所の可能性もある。
この銃撃戦はギャング映画の名残があるシリーズ初期ならではの描写で、後期作品の鑑賞後に再見すると若干の違和感を覚えてしまう。
明度を上げたことにより、はっきりと見えた“白坂木材”の文字。これが場所特定の決め手となった。
銃撃戦の後半から石住橋付近へと場所を移す。元画像の1枚目は映像の繋がりそのままだと石住橋西側の対比写真の場所なのだが、違うかもしれない。2枚目、映像ではクレーンを使って車道から撮影されている。
大栄橋の北へ向かっていた犯人はここで橋の西側に移動し、さらに南方向へと逃走する。元画像に写る橋の欄干の影から、撮影の進行に合わせて刻々と時間が進んでいるのがわかる。
石住橋を渡ったところで黒岩は捕らえられ、小磯は隣接する貯木場へ逃げ込む。
必死の逃走を続ける小磯もついに逮捕された。
現在の豊住公園広場。元画像4枚目の右端には大栄橋が見える。
貯木場は埋め立てられ、嵩上げされグラウンドとして整備されている。映画の時代とは地面の高さが異なるため、現在の同地に立った時の足元が俳優の頭上ということになる。
映画のラストカット。これもクレーンによる撮影。夕刻と推測される。
映像のカメラ位置と近い場所に茂森橋際歩道橋があり、対比写真はその上から撮影した。
ほぼ当時のままの姿で現存する大栄橋。
「木場の井住橋」という台詞に従い探し始めたが、井住橋では周辺建物その他の位置がどうしても合わない。そのうちに犯人逮捕の貯木場が豊住公園だとわかり、近隣の橋や建物を検証する中で“白坂木材”の屋号に気づき、特定できた。撮り直しや撮り足しのため、都合三回足を運んでいる。
仙台堀川に架かっていた旧石住橋。大栄橋の西側に位置する。仙台堀川はこの付近から東側が埋め立てられたため、橋としての役割は40年ほど前に終えている。
豊住公園。対比写真を撮影した広場は階段の上。貯木場は階段下の地面のさらに下にあった。どの程度嵩上げされているか、ご理解いただけると思う。
(文中敬称略 撮影:2022年11月&12月)
『警視庁物語 血液型の秘密』(1960年6月7日公開:飯塚増一監督)と『警視庁物語 不在証明(ありばい)』(1961年1月26日公開:島津昇一監督)から、聞き込みのシーンで使われた文京区の坂を取り上げる。
『血液型の秘密』の安藤坂。都電が大変印象的なカット。カメラがパンして南の方角を捉えた先にNHKとNTV、ふたつのテレビ塔が映り込む。
産婦人科・相澤医院という設定のこの建物は、当時の小石川保健所である。
『不在証明』より菊坂。実際に存在した派出所での撮影。看板をよく見ると“菊坂巡査派出所”の文字が読み取れる。
同じく『不在証明』より旧東富坂。“高原荘アパート”の看板は映画の撮影用に用意されたもの。
(撮影:2022年11月&12月)
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